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勝ち負けではない

by 広木 隆

10月4日「投資(10・4)の日」の昨日は大手町に本社がある某企業主催のセミナーで講演をした。投資家を前に市場見通しや投資戦略、注目銘柄などを語ったりするのが通常の投資セミナーだが、昨日は聴衆のほとんどが初心者、というか株式投資に興味はあるけれどまだ踏み出せていない、どう始めたらいいか分からない、というひとたちを対象とした「入門編」。投資の方法というよりは、むしろ投資の意義や心構えみたいなものを語った90分間だった。

セミナーで、「桐一葉落ちて天下の秋を知る」で有名な「独眼竜」こと、石井久・元立花証券社長の言葉を紹介した。

私は小学校しか出ていない『学歴ゼロ』の人間ですが、常に勉強は怠らなかった。今でも誰よりも勉強しているつもりです。証券市場では、あらゆることを勉強しておかなければ生き残れません。神様は勉強しない人にもうけるチャンスを与えません
2013年7月 日経新聞のインタビュー

僕は常々、企業の本源的価値や適正価格、いわゆるフェアバリューを考えるプロセスが重要と述べている。それに対して、「相場は理屈じゃない」とか「結果がすべて」といった反論が寄せられることが少なくない。信条というものはひとそれぞれだから、特に反論するつもりもないが、僕は生き方としてプロセス重視を選ぶ。結果は、努力を継続するプロセスの先についてくるものだ。これとほぼ異口同音のことをロバート・ルービンが語っている。

ときとして間違った判断が成功に結び付くことがあれば、きわめて正しい判断が失敗に終わることもある。しかし、長い目で見れば、より深く考え抜いたうえでの意思決定は、全体としては望ましい結果につながり、結果そのものよりも、いかに検討を加えて意思決定が行われたかが評価されることになる
ロバート・ルービン(元米国財務長官)

簡単な言葉で言えば、こういうことだ。良かれと思ってやってもうまくいかないこともある。なんとなくやって、たまたまうまくいくこともある。だけど、長い目で見れば、やっぱり、ちゃんと、真っ当に考えてやったほうが、うまくいく。ロバート・ルービンはゴールドンマン・サックスのトレーダーからその腕一本でゴールドマンの会長へ、そして米国財務長官へとトップに上り詰めた男である。耳を貸すに、じゅうぶん値するとは思わないだろうか。これは拙書『勝てるROE投資術』で述べたことである。

そしてまた、まさに「我が意を得たり」というような言葉に出会った。日頃からお世話になっているレオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者・藤野英人さんの言葉である。

努力は必ずしも報われない。それはホントです。しかし、努力して失敗したからといって後退というわけではありません。なにか挑戦をしたら、勝つか負けるかではなく、実際は勝つか学ぶかだと考えてみてはどうでしょう。結果的には手数が多い方が勝てるということになります。

その点では、人生の長い時間軸の中で努力は報われる可能性が高いと思われます。特に85%くらいの人が努力は報われないと思っている現状では、努力を継続すれば、ほぼ勝てるのではないでしょうか。
投資は「勝つ」より「負けない」銘柄・日経マネー研究所「プロのポートフォリオ」

昨日のセミナーでは、投資は単なる「金儲けの手段」を超えて、自分の知的好奇心や教養を高めるインセンティブになると述べた。命の次に大事なおカネをリスクにさらせば必然的にアンテナを感度良くしておこうと思うだろう。経済やビジネスの動向だけでなく世界情勢、国際政治に対する感度を磨くモチベーションになる。さらに言えば、精神力も鍛えられる。投資から学ぶことは多い。それこそが「金銭的リターン」だけでない投資の魅力だ。藤野さんの言葉を借りれば、「勝つか負けるか、ではなく、勝つか学ぶか」。そう考えれば、ダウンサイドはないではないか。負けてもそこからなんらかの「学び」が得られるのだから。株式投資は実は最高の「自己投資」である。

反対意見はもちろんあるだろう。「儲けてナンボ」ではないか、とか。しかし、この3人が言っていることをよく噛みしめてほしい。この3人の名前をもう一度挙げておこう。石井久、ロバート・ルービン、藤野英人。3人とも誰もが認める稀代の投資家である。その言葉を素直に受け止めて損はない。



広木 隆
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