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AIと株式運用

by 広木 隆

前回の続きである。なにかというと、オンラインセミナーで答え残した質問の回答をブログでする、という件である。ある視聴者から「ブログで回答するとのことだったが、いまだに回答がない」と問い合わせを受けた。お待たせして申し訳ありませんでした。回答させていただきます。その質問とはこちら。

日本株でAIによる超高速取引を使った取引は、市場をゆがめるということで金融庁が登録制にして制限するというニュースを見ました。プロの将棋棋士も勝てないほど発達したAIに個人投資家はとても勝てるとは思えません。広木氏はどう考えますか?

「プロの将棋棋士も勝てないほど発達したAIに個人投資家はとても勝てるとは思えない」とこの質問をされたPさんは言う。僕も、そう思う。プロの棋士も勝てないのだから、個人投資家がAIと戦っても勝ち目はない。但し、何の勝負か?による。将棋を指したら100%勝てない。しかし、株式投資なら話は別である。

AI、アルゴリズム、HFT(高頻度高速取引)- ここではそうした取引を一括りに「ロボット」もしくは「機械」としよう。人間が機械に勝てないのは、速さと正確性、そして作業をこなす量である。したがってHFT(高頻度高速取引)などには絶対勝てない。

だから「人間の負け」かというとそうではない。勝負する土俵が違うのである。つまり、端から「勝ち負け」ではないのである。自動車やバイクと駆けっこして勝った負けたといいますか?膨大な量の計算をコンピュータとそろばんで競いますか?そんなことはしないだろう。意味がないことだからである。

それと同じで、株式市場の板にある注文を高速でかっさらって1カイ2ヤリで値ざやをこまめに稼いでいく - そういう取引をするという「勝負」なら機械には絶対に勝てない。事実、自己売買部門の「人間のディーラー」はほぼ廃業である。

しかし、個人投資家の株式投資とはそういうものばかりではない(というか、そういうのは一部のデイトレーダーさんの手法)。ふつうの株式投資は、ファンダメンタルズを分析して銘柄選択をしたり、押し目買いや戻り売りなど売買タイミングで勝負したり、あるいは分散されたポートフォリオを長期に保有したり、そういう運用を指すのではないか。それであるなら、まだ機械に必ずしも勝てないということはない。繰り返すが、今の機械が人間に勝るのは、速さと正確性と量である。将来を見通す洞察力は、まだそれほどでもないだろう。

ひとつ、証拠を見せようか。先日、日経新聞が1面で報じたニュースがある。みずほ証券が人工知能(AI)を搭載した株式売買システムを開発し、機関投資家向けに提供し始めるというものだ。株価変動を予測して「安く買い、高く売る」ように注文執行のタイミングを調整するのだという。個別銘柄ごとの注文状況や売買ボリューム、過去の値動きなどのデータから、株価が30分~1時間後に現時点と比べてどのくらい上昇・下落するかをAIで予測する。株価が上がると判断すれば早めに買い、下がりそうなら遅めに買う。

こういう報道を見ると、ますます個人投資家は置き去り感を強めるかもしれない。メガバンク系列の大手証券がAIを搭載した株式売買システムを開発し、機関投資家向けに提供するというのだから、個人投資家はますます勝ち目がない、とPさんならずとも思ってしまうだろう。

しかし、これでいったいどれだけパフォーマンスが改善するのだろう。記事によれば、注文金額の0.01%程度の運用成績改善が見込めるという。記事はそのあとに、わざわざ「システムの利用料は徴収しない」と書いている。「当たり前じゃないか、0.01%の成績向上で利用料はいったいいくらだよ」と突っ込みが入るのを、あたかも期待したかのような書きぶりである。

そういうことである。AIだとかシステムだというけれど、パフォーマンス改善の期待値は0.01%。

1万円で1円、100万円で100円、1億円で1万円である。

だったら、もっと確実にパフォーマンスを改善させる方法がある。あなたが現在取引しているブローカーよりも、0.01%以上、より手数料率の安いブローカーに発注することである。


広木 隆
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