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トランプ氏 - 良いニュースと悪いニュース

by 広木 隆

今週の月曜日からテレビ東京のニュース番組は、新スタジオからの放送に切り替わった。長年親しんだ神谷町から新本社の六本木グランドタワーに移動した。僕は夜10時からのBSジャパン「日経プラス10」にゲストで出演。新スタジオの初回ということで、「トップアナリストが大胆予測!どうなる株価~波乱のマーケット」という特別企画が組まれた。木野内栄治さん(大和証券)/ 三浦豊さん(みずほ証券)/ 馬渕治好さん(ブーケ・ド・フルーレット)に僕を加えた4人によるスペシャルトークである。

トークのテーマは、大統領選の勝者がトランプ・ヒラリーそれぞれの場合について相場がどう推移するかの予想、12月に米国利上げはあるか、日銀の政策評価、有望な業種は?など。僕はトランプ大統領誕生となったら株価は下げるが、急落したところは絶好の買い場であるとの持論を再度強調した。

このひとつ前のブログ「今週の相場展望」で以下のように述べた。

サブシナリオは、早い段階でフロリダ、オハイオ、バージニアの「スイング・ステート」でトランプ氏が勝利すること。そうなればその後の逆転の目は相当薄くなるので、東京市場は「トランプ大統領誕生」で反応する。すなわち大幅安になるだろう。6月のBREXITでは1300円近く下げた。今回も1000円幅の下落となってもおかしくはない。

ただし、「トランプ大統領誕生」で市場が急落したら、そこは絶好の買い場となるだろう。「トランプ大統領誕生」による急落は、ショック安や狼狽売りで、実体経済の悪化を反映したものではないからだ。そうしたセンチメントの急変による安値はミスプライスとなることが多く、その後の修正が期待できる。これはBREXITで学習済みだろう。

実際の相場の動きはご案内の通りだ。FRBの12月利上げの可能性についても、トランプ氏が大統領に決まったら見送られると他の3人が予想されたのに対して、僕一人だけ「トランプになっても利上げはある」と主張。根拠として、トランプ大統領誕生による市場の混乱は早期に収束するからだと述べた。

僕ら4人に小谷さんと山川さんが絶妙に絡み、いい感じにトークが進行して番組はエンディングへ。最後にひとりずつ、「ヒラリー・クリントンが大統領になる確率は?」という質問に回答した。僕が「51%」と答えると、小谷さんはじめみんなの反応は「えー!?」。僕はしれっと、「フィフティ・フィフティでもいいくらいです」と述べた。

番組はおおいに盛り上がって、新スタジオ初日の放送は無事終了。全員安堵の表情で記念撮影に収まった。

さて、トランプ大統領である。市場は早くもトランプ氏の掲げる政策を織り込むように反応しているが、政策の実現性について現時点で判断するのは至難の業と言える。

共和党の主流派、下院議長のポール・ライアン氏は大統領選挙で勝利したトランプ氏と緊密に協力し、共和党の政策を積極的に推し進めていく姿勢を表明したが、それはあくまでも「共和党」のためであって、「トランプ氏」のためではない。選挙直前に発覚した女性に対するわいせつな発言を巡ってライアン氏とトランプ氏の間には決定的な溝ができている。ポール・ライアン氏はそうした対立感情はさすがに表に出さないだろうが、「信念」は軽々に曲げない。ポール・ライアン氏は「財政タカ派」、すなわち財政健全化を旨とする保守本流だ。トランプ氏の財政出動、減税などに易々と首肯するとは思えない。信念を曲げやすいのは政治家でなく実業家のトランプ氏のほうだろう。

実際にその兆候は早くも見え始めた。トランプ氏は、オバマ大統領との協議を受けて医療保険制度改革法(オバマケア)の一部の維持を検討する意向だ。大統領選後初のインタビューでウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に明らかにした。オバマケアの全廃は公約に掲げていたはずである。これは財政負担を嫌う共和党の議会ともめるだろう。

トランプ氏は、オバマ大統領と10日にホワイトハウスで会談した際、オバマ大統領から直接考え直すよう求められ、それが自身の考えを変えた大きな理由だと説明。「オバマ大統領に提案を検討すると伝えた。大統領の意思を尊重し検討する」と述べた。

これはグッドニュースでもありバッドニュースでもある。グッドニュースはトランプ氏はひとの意見を聴き、自分の考えを変えることのできる人物であるかもしれないという希望が出てきたことだ。実業家として、ここまで成功した人物である。柔軟な思考を持ち合わせていてもおかしくない。よりえげつない表現をすれば、信念などより実利を優先するタイプの人物だろう。そもそも選挙期間中の数々の言葉は、「信念」や「政策」というよりも、選挙に勝つための「撒き餌」だった可能性がある。大統領の座を手中にした今、より穏当で現実路線に軌道修正を図っていくのは不思議なことではない。

バッドニュースは、円安・株高の巻き戻しが起こるリスク。トランプ氏の財政出動を織り込んで長期金利が上昇しドル高円安が進んだ。それを好感して日本株は上げに勢いがついたところもある。やはり時期尚早だったと円高に振れ直せば、株価も反落するだろう。それだけではない。個別には金融規制の強化見送り期待で金融株が買われたり、インフラ投資期待で建設機械や素材が買われたりした。そうした「トランプ政策関連」株への見直しが入るかもしれない。いずれにせよ、「トランプ祭り」の第一弾はそろそろ幕引きの頃合いだろう。


広木 隆
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