Dance with Market

冬の金沢の雪吊 

by 広木 隆

北陸の古都・金沢へ行った。東京を出る時は冬晴れの青空が広がり、陽ざしが注いで暖かだったが、金沢に着くと空はどんよりと鈍色に覆われていた。この季節、太平洋側と日本海側では空模様がまるで違うことがよくある。宿に荷物を置いて街に出ようとした時に、雷が鳴って土砂降りの雨、それがやがてみぞれに変わった。夕方には、霰(あられ)が降った。これがこの時期の北陸の天候である。普通のことだ。雷雨とみぞれ、霰などの間隙を縫って、短時間だが観光名所に立ち寄った。

ひがし茶屋街。より直截的に、ひがし廓とも言われる。右上の写真、「志摩」は国の指定文化財になっている。

金沢一の観光名所と言えば、兼六園。岡山の後楽園、水戸の偕楽園と並ぶ日本三大名園のひとつである。冬の見どころは、「雪吊(ゆきづり)」の風情だろう。雪吊とは、雪が降り積もって樹木の枝が折れないように縄で枝を補強することだ。樹木の幹付近に柱を立て、柱の先端から各枝へと放射状に縄を張るのが代表的な雪吊である(左上)。金沢の冬の風物詩とも言える雪吊だが、近年は暖冬の影響で雪が積もることは減ったという。金沢の冬の天候は悪く、雨、霰、雹(ひょう)まで降るし、雪も舞うのだが、積もることはあまりない。雪をまとった雪吊の樹々はあまりお目にかかれないらしい。

夜は「一乃松」という和食の店に行った。はじめに店で使う出汁が供される。自信があるのだろう。それと同時に客の味覚も試されている気がする。この辺りにも金沢のお茶屋文化の名残を感じる。お茶屋で粋に遊ぶには客の側にも芸を解する知識、教養、技量が求められる。だから旦那衆は茶屋通いのために自ら稽古事をするという。

能登の鰤。今年は3年ぶりに当たり年だという。確かに、身に上質な脂が乗っていた。ちなみに「氷見の鰤」が有名だが、水揚げされる場所が北=能登になるか、南=氷見になるかだけの違いであって、鰤自体は能登も氷見も同じだという。

付き出し、白子、鯨、のどぐろ。すべて地のもの。すっぽんも金沢産だ。但し、すっぽんそのものよりも、丸鍋のあとの雑炊が絶品であった。ふぐちりで食べるふぐ自体よりも、そのあとの雑炊がうまいのと同じである。

料理も雰囲気も存分に満喫して、店をあとにした。

「冬の金沢」とかけて、「一夜限りの出逢い」と解く。そのココロは?
行きずり(雪吊り)の恋である。

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