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再来年のこと もう一つのリスク

by 広木 隆

年も押し迫って、来年のことを語っても、もう鬼が笑わない時期となった。しかし、再来年のこととなると話は別かもしれない。「そんな先のことなんて...」と鬼でなくても一笑に付されてしまう話かもしれない。

ひとつ前のエントリーでリスクシナリオについて述べた。そのひとつに、米国景気が息切れして利上げの打ち止め観測が出るというものを挙げた。そこに日欧が金融緩和の出口を探るタイミングが重なれば、完全に円高に巻き戻るだろうが、しかし、それは相当先、おそらく2018年になるだろうと述べた。

ここでは同じ2018年ごろに想定されるまったく別のリスクシナリオを提示する。それは米国経済が失速どころか過熱して、バブルへと突き進む可能性である。

著名投資家のレイ・ダリオ氏は「トランプ政権への移行によって投資が活性化し、アメリカへの資本流入が促される」「次の政権が好循環に火をつけることができれば、リスク資産に対する投資は莫大なものになるだろう」と主張した。レイ・ダリオ氏といえば、世界最大級のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエーツの創業者であり、投資の世界のカリスマである。世の中の先行きを読む力にかけてはダリオ氏の右に出る者がいない。もうひとり、目鼻の効く、つまり眼力と嗅覚の鋭い人物を挙げれば、ソフトバンクの孫正義氏で異論はないだろう。孫氏もまた早速トランプ氏と面会し、米国に対する500億ドルという莫大な金額の投資を約束してきた。その500億ドルは、例のサウジアラビアとのファンドを通じた資金が主体だ。

孫氏がトランプ氏に提示したプレゼン資料の中にはソフトバンクの社名と共に、FOXCONNという文字が記されていたという。FOXCONNはシャープを買収した台湾の鴻海精密工業のことだ。中東のオイルマネーも鴻海の工場投資も米国に向かうのだろう。いや、おそらく世界中のマネーがアメリカに集められるだろう。

トランプ政権の顔ぶれを見れば、ウォール街出身者と実業家だらけだ。つまり、カネ集めとカネ儲けが大好きな連中である。まさに「好きこそものの上手なれ」で、彼らはそういうことにものすごく長けている。その筆頭が次期財務長官のスティーブン・ムニューチン氏。ムニューチン氏はゴールドマン・サックス時代、債券部でモーゲージ債などを扱う不動産ファイナンスの専門家だった。彼はインフラ銀行の設立に言及している。ムニューチン氏は水を得た魚のように動くだろう。

国家通商会議のトップに決まったピーター・ナバロ教授と次期商務長官ウィルバー・ロス氏はインフラ投資に民間資金を活用することを選挙期間中から提唱していたし、バロンズ誌はビルド・アメリカ債による資金調達を提案している。つまり、トランプ・ボンドかファンドかバンクかはわからないが、そういうなんらかのヴィークル=集金マシンを使って莫大な投資マネーを集めようという動きが出てくる。そして、言わずもがなだが、そのカネ集めの仲介役はウォール街が果たすことになる。

ウォール街が仲介役となって莫大なマネーがアメリカに投資される道筋がつけられようとしている。投資が活性化し、アメリカへの資本流入が促される、リスク資産に対する投資は莫大なものになるというレイ・ダリオ氏の発言の真意はそこにある。

長きにわたった金融緩和でマネーはいまだにジャブジャブの状態だ。それが少し前まで見られた「イールドハンティング」の根本的な背景である。しかし世界にあふれているマネーはようやく受け皿を見つけるだろう。ウォール街はそのマネーを受け皿に流し込むパイプを用意するだけで、再び暴利をむさぼることだろう。

トランプ当選後に米国市場でもっとも上がったのは銀行株だ。銀行規制が緩和されるから、という理由は極めて表層的なものだ。本当はその背後にある、膨大なビジネスの案件=カネ儲けのチャンスが再びウォール街に降ってくるということを市場が嗅ぎ付けたからである。

2017年。それは米国が再びバブルへと向かう序章が開かれる年となるかもしれない。


広木 隆
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