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参照点

by 広木 隆

今日の日本列島は台風一過で猛烈な暑さとなった。東京都心では38度近くまで気温が上昇した。フェーン現象である。気象や天候という自然科学の領域は因果関係の説明がつきやすい。

それに比べて経済学など社会科学は「科学」と名はついているものの、因果関係の多くが理論的に説明できないことが多い。ましてや、金融資本市場で観察される事象など明確な理由がつかないことのほうが圧倒的に多い。

「なぜ株価が下がったのですか?」「為替が円高になったからです」

よく見かける問答である。昨日の日本株式市場の解説がまさにそうだ。昼頃から円が買われ、ドル円相場は100円台前半に急伸、これを受けて日経平均も下落した。

今日の日経平均は昨日の終値とほぼ変わらずで寄り付いたあと、ずっと堅調に推移した。ドル円相場はやはり100円台。円高であることには変わりない。為替の水準がそれほど変わらなくても、昨日は株が売られ今日は株が買われる。「水準」そのものではなく、「変化」が重要なのだろう。

昨日はそれまで101円台だった円相場が100円台前半に急伸したことが嫌気された。その後、海外で99円台半ばまで円高が進んだものの要人発言等もあって100円台に戻って帰ってきた。一度、99円台を見た後の100円台は(昨日と変わらなくても)「円高一服」として好感される。なんとも奇妙な話である。

つまり、どこを参照点として意識するかで、相場の捉え方が変わるのだ。いくらなら円高とか円安といった絶対水準の話ではない。参照点からどちらに動くかが相場の材料になるということだ。

人の効用は、絶対的な水準ではなく参照点からの変化によって決定される。これを行動経済学では参照点依存性という。昨日今日の為替に振らされた日本株市場を観て、まさにそのことを思い出した。

今日の午後は大手町の日経新聞本社に市場関係者が20名以上集められ、某番組の企画で年末の株価・為替レートを占うということをさせられた。今からわずか4か月後のことだ。ドタ勘で答えられなくもない。しかし、年末の値そのものがどうなるかというより、そこに至るパス(経路)が重要である。ジャクソンホール、9月の日銀の「総括的検証」、米国大統領選、米国の年内利上げの有無、etc. それらのイベントで為替が動き、それに連れてまた株価の位置も変わってくる。

年末ドル円が105円なら日経平均1万8000円というような一対一対応の関数では決してない。参照点依存なんだけどなあ...と呟きながら、僕が出した年末の想定株価と為替レートが1万8000円と105円である。


広木 隆
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