Dance with Market

  イレブン・ミニッツ

by 広木 隆

有楽町のイトシア4階にあるヒューマントラストシネマで、イエジー・スコリモフスキ監督の最新作『イレブン・ミニッツ』を観た。『アンナと過ごした4日間』、『エッセンシャル・キリング』などで知られるイエジー・スコリモフスキ監督は、カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界三大映画祭で主要賞を獲得しているポーランドの巨匠である。最新作『イレブン・ミニッツ』についても好意的な(というより絶賛する)レビューが多い。なので、相当期待して映画館に足を運んだのだが...。

日経の映画評で五つ星をつけている映画評論家・中条省平氏の解説を引用しよう。

題名通り11分間に起こった出来事を描く。主な登場人物は10人ほど。各々の違った視点でこの11分を描き、気が遠くなるほど精緻なパズルのような断片を積み重ねていく。

色っぽい女優がホテルの一室で映画監督から怪しげなオーディションを受けている。この女優を追って嫉妬深い夫がホテルに忍びこむ。ホテルの周りには、いわくありげな奇人変人が集まっている。刑務所を出たばかりのホットドッグ屋。麻薬中毒でバイクを飛ばす宅配便の男。ガスバーナーで超高層ビルの壁を修理する登山家。異常者が暴れる火事現場から出産間近の妊婦を救いだし救急車で運ぶ女性救命隊員、等々。

一見ばらばらなドラマの断片が一気にひとつの焦点を結んでいくラスト10分は、まったく予想不可能、誰しも仰天すること請けあいだ。映画にまだまだこんな可能性があると示し、しかも、どんな災厄が起こっても不思議でない現代世界のいわば縮図になっている。驚くべき作品である。

確かに、スタイリッシュで洗練された映画である。メタファーも効果的だ。しかし、1回観ただけではわからないところも正直多く - いや、きっと繰り返し観てもわからないままだろう - 安易な解釈を拒絶するようなエピソードがポンポン挿入される。それはそれでいい。ただ、「一見ばらばらなドラマの断片が一気にひとつの焦点を結んでいくラスト10分」に過剰に期待した反面、この幕切れはすっきりしない気分であった。

「一見ばらばらなドラマの断片が一気にひとつの焦点を結んでいく」という言葉に嘘はない。収斂はする。しかし、そこに因果関係はない。ただ単に重なるだけだ。だからカタルシスを感じないのだ。

ここ最近のテーマは、長期金利上昇と日本株の連動性について、であった。レポートの読者から批判を頂戴した。「それはただ相関関係を示しているだけで因果関係の説明がない」と。さすが僕のレポートの読者だけのことはある。僕がもっともこだわる<相関関係と因果関係>に言及するとは。

2012年4月に書いた「渋谷ヒカリエと日銀の金融緩和」というレポートでその点について述べている。<昔、筆者がまだ駆け出しのファンド・マネージャーだった頃。株価と、その変動要因と考えられそうな指標を並べたグラフ – 例えば日経平均と鉱工業生産指数の推移など - を示して相場の見通しを語ろうとすると、よく上司に一蹴されたものだ。「そんなのはただの『絵合わせ』にしか過ぎねえんだよ」と。>

<複数のデータ系列を同じ座標軸上に表示して視覚的なフィットの良さで説明しようと、回帰分析などの統計手法を使った分析であろうと、説明変数と被説明変数の間に合理的な因果関係が認められなければ、それはただの絵合わせ、数字合わせと大差ない。>

日本株の動きと長期金利の動きは確かに重なる。その背景は、理由は、因果関係はなんだろう。金融株については明示的な説明ができるから割愛しよう。(但し、本当はもう少し複雑で市場の誤解によるところが大きいというのが大槻の分析である)

金融株だけでなく日本株全体が長期金利と連動してきたのは、日銀の金融政策に対する否定的な見方が反映されたもの - という解説では不十分だったようだ。もう少し想像力を豊かにして解説を試みれば、こういうことではないか。


イールドカーブのフラット化というのは、すなわち金利の先安観に他ならない。そういう状況では企業は設備投資を抑制するだろう。いま設備投資を急ぐ必要はないと思ってしまう。そもそも金利は利潤率だからそれがマイナスでは事業を拡大するインセンティブが高まらない(水野和夫氏『資本主義の終焉と歴史の危機』の主張である)。


また家計も銀行預金がマイナス金利で減る不安にかられ、消費を控えてしまう。長期金利までマイナスに水没させるような極端な金融緩和が却って企業・家計の行動をデフレ時代に引き戻していたのである。こうした日本経済の閉そく感を映して長期金利と日本株は連動しながら下がってきた、というのが僕の解釈だ。

米国の利上げも、金融引き締めというより「ゼロ金利」の解除であり、金融政策の正常化という位置づけだ。日銀も「総括的検証」を踏まえて、極端な金融政策の行き過ぎを正して、イールドカーブの正常化を目指すだろう。

そう考えると、今いたるところで起きている市場の調整は、金融政策が正常化することに反応しているわけで、つまりは市場のプライシングが正常ではなかったということになる。どこで収斂するかは市場のみぞ知る、だ。映画『イレブン・ミニッツ』のラストシーンのような展開には、どうかならないで欲しいと祈るばかり。

LINE it!