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十五夜と米国の個人消費

by 広木 隆

昨晩はお世話になっているメディア関係の方と会食した。六本木通りを、ヒルズとは反対に一本入った路地にある中華料理の店。どうってことのない店構えだが、本場香港のものと遜色ない点心を供する。フロアにはマダムひとりでサービスが滞りがちなのも、どこかアジアらしい。

二次会は、六本木7丁目のバーラウンジに移動。ふつうの路地裏にある、ふつうのマンションの3階が隠れ家的なバーになっている。屋上のテラス席から六本木の夜空を見上げることができる。ヒルズの威容が眼前に迫り、なかなかの雰囲気である。

夜風に吹かれながら、僕たちがいい気分でワインを飲んでいたころ、米国では大変なことが起きていた(最近、このパターンが多い)。

21:30に発表された8月の小売売上高は前月比0.3%減と、市場予想の0.1%減を超える落ち込みとなった。自動車などを除くコア小売売上高は0.1%減。市場予想は0.1%増だった。前月分は0.1%減に下方修正された。

続いて発表された8月の鉱工業生産指数は前月の改定値から0.4%低下。3カ月ぶりの低下で市場予想も下回った。

弱い経済指標を受けて9月利上げの可能性はますます低くなった。それを好感して、NYダウ平均は177ドル高。しかし、弱い経済指標で大幅高する米国株は異常に映る。

今の米国経済は個人消費だけに支えられていると言って過言ではない。4-6月期のGDP成長率は予想の半分にも満たない1.2%という低い数字だった。唯一気を吐いたのはGDPの約7割を占める個人消費。4.2%増と、14年第4四半期以降で最大の伸びを記録した。4-6月期の小売売上高(コア)は4月が+0.7%、5月が+0.1%、6月が+0.6%の伸びであった。それに対して、7月と8月は2カ月連続で0.1%のマイナスである。これでは7-9月の個人消費は悲惨なものになるだろう。

もう一度言うと、今の米国経済は個人消費だけが支えで、4-6月期は小売データでも個人消費が堅調さが確認できていた。ところが7-9月は、7月8月と小売りデータがまるで冴えない。このままでは7-9月期のGDPは相当低い数字になるかもしれない。堅調な労働市場を背景に個人消費の緩やかな拡大が続き、米国経済は年後半に持ち直し成長率は加速する - というのが現在の市場のコンセンサスだろうが、大幅に修正を迫られるリスクが出てきた。

7-9月のGDPの発表は10月末。それ次第で、米国の利上げは12月どころか打ち止めになるという見方が浮上しないとも限らない。そのタイミングは大統領選の直前。波乱含みの展開になる覚悟をしておいたほうがいいだろう。

バーの屋上のテラスから夜空を見上げると、ヒルズの向こうにきれいな月が見えた。。そうか、昨日は中秋の名月、十五夜だ。

松任谷由美は『14番目の月』で、「つぎの夜から欠ける満月より 14番目の月がいちばん好き」と歌った。米国の労働市場が完全雇用の状態にあるとすれば、それはこれ以上良くならないということを意味する。いまがいちばん良い状態なら、この先は「欠けて」いくしかない。労働市場がピークアウトしたら個人消費に翳りが出るのは言うまでもない。唯一米国経済を支えている個人消費が減速したら...リセッション入りの公算が高いと思われる。



広木 隆
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