Dance with Market

トランプ大統領の「やってる感」

by 広木 隆

冬の京都へ行った。前回行ったのが、このブログ「京都の夏、フィボナッチの石」を書いた昨年8月だからちょうど半年ぶりである。京都がもっとも賑わうのは春の桜と秋の紅葉の頃。京都は盆地だから夏は蒸し暑く、冬は底冷えするような寒さで人気がない。そこがいいところである。誰もいない山寺の階段を昇って京都の街を一望する。人気(ひとけ)のない嵯峨野の竹林に一歩足を踏み入れれば静寂に浸れる。

つまり逆張りである。相場格言にはこうある。「ひとの行く 裏に道あり 花の山」
世界文化遺産に指定されている天龍寺では、紅白の枝垂れ梅が咲いていた。

夜は例によって祇園で飲んだ。

京都らしいところで、鴨と京野菜の炊き合わせなどをいただいた。

のんびりと冬の京都に行って祇園あたりで飲んだくれていたのは、どうせ相場は日米首脳会談を控えて動かないだろうと思っていたからだ。それが金曜日、日経平均は471円高と急反発。今年2番目の大きな上げ幅だった。「目を見張るような税制を2、3週のうちに発表する」というトランプ発言を受けて米国株式市場で主要株価指数がそろって最高値を更新。金利も上昇し円安ドル高に振れた。市場は一気にリスクオン・ムードに傾いた。

改めて思うと、トランプ氏はぶれていない。選挙中から掲げていた方針を貫き通している。

今日の日経新聞のコラム『大機小機』は、「安倍政権のやってる感」という話だった。いわく、「3本の矢」、地方創生、新「3本の矢」、一億総活躍などと次々に目先を変え続けても、看板を掛け替えて会議を立ち上げるだけなので成果があがらない。それでも安倍内閣の支持率が極めて高いのはなぜか?それが「やってる感」だというのだ。頻繁に外遊をこなし、その度にテレビに自身の姿を映し出す外交姿勢は「やってる感」満載だ。つまり、成果はあがっていないが、「あれこれ頑張ってる」という姿勢を国民に示しているから支持率が下がらない。

今日の『大機小機』を読んで、僕は「それならトランプ大統領こそ、まさに『やってる感』満載じゃないか」と思ったのである。

上述の通り、トランプ氏はかねてから掲げている公約の旗を降ろしていない。それどころか、折に触れて公の場で言及し、一部金融規制の見直しなどは大統領令に署名までした。

同じく今日の日経新聞朝刊の1面に、サンフランシスコの米連邦控訴裁判所(高裁)が9日、イスラム圏7カ国からの入国を禁じる大統領令の差し止めを支持したことを取り上げて、「トランプ政権の看板政策つまづく」という見出しの記事が掲載された。しかし、トランプ氏にとってみれば痛くも痒くもない。むしろしてやったり、思う壺、くらいに考えているのではないか。

日経新聞・総合面に掲載された渡辺靖・慶応大学教授の解説がすべてを言い表していると思う。

今回の司法判断がトランプ大統領にとって政治的打撃になるかどうかは微妙だ。トランプ氏からみれば選挙戦での公約をできる限り実行し、それを判事が否定したにすぎない。最高裁で同じ判断が出ても、トランプ氏の熱狂的な支持者の支持が大きく揺らぐことはないだろう。

つまり、トランプ氏にしてみれば、「俺は、支持してくれたみんなを守るために公約通りに入国制限をした。それなのに司法がそれを邪魔するのだ。だから徹底的に戦うぞ」というポーズをずっととっていられるのだ。実際に移民やそのほかの地域からの入国に制限がかからなければ、米国経済の活力は落ちない。これこそ、本音と建て前をうまく使い分けるビジネスマンの面目躍如だろう。

トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が初めて電話協議を行い、トランプ氏が中国大陸と台湾が一つの国に属するという「一つの中国」の原則を堅持すると表明したことも、リスク回避のムードを和らげることに一役買ったと言える。

当事者(例えば日中首脳)がいないところでは、刺激的な物言いをするが、当人を前に面と向かっては過激な発言を封印して良好な関係をアピールする。これは大統領選で勝利した直後ホワイトハウスにオバマ前大統領を訪ねたときも同様だった。

これがトランプ大統領の本質である。そう考えれば、通商政策や円安誘導批判などすべてポーズである。本音と建て前の使い分けを見極める必要がある。ナイーヴ過ぎる日本のメディアや、あるいは(確信犯的にか本当にバカかは別として)煽情的に騒いで露出を得たいコメンテーターの言説に引っ張られるのは要注意である。大統領選勝利から3カ月、就任から20日余り。だんだんと実態が見えてきた。市場は早晩「つぶやき」に恐れたり、過度に反応したりしなくなるだろう。

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