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米ハイテク株急落の背景

by 広木 隆

昨日はパシフィコ横浜で投資セミナーを開催し、大勢のお客様にご来場いただいた。パネル・ディスカッションでは多くの話題に触れたが、先週末のNY市場で起きたハイテク株の急落について、パネリストのひとりである岡崎良介さんが興味深いことを述べていた。岡崎さんは、ナスダック総合指数は急落したが、NYダウ平均は史上最高値を更新していることを指摘し、こうしたナスダックとダウの「逆転現象」は、ハイテク・バブルの頃によく見られた現象だという。

確かに、昨今のハイテク株の上昇はハイテク・バブルの頃を彷彿とさせる。さらに時代を遡って、70年代前半のニフティ・フィフティ相場に今のFANG相場を重ね合わせる指摘も多い。5月2日付のブログで述べた通り、アップル、フェイスブック、グーグル、アマゾン、マイクロソフトの時価総額上位5社がS&P500の時価総額増加の4割を占める。これにネットフリックスやエヌビディアなどを加えた一部のハイテク銘柄ばかりが偏って買われてきた。これはまるで一部の銘柄に買いが集中していたニフティ・フィフティ相場の再現とも言える。

急落の背景は何か?アップルのスマホ次期モデルの性能が期待に届かず、発売時期が遅れるとの観測が浮上したことか。空売り専門のシトロン・リサーチがエヌビディアを割高と指摘したことか。あるいはゴールドマンが示したハイテク株を巡る慎重な見方が急落の原因となったのか。いずれも決め手には欠く。

突拍子もない見方かもしれないが、僕は「トランプ・ラリーの巻き戻しの巻き戻し」ではないかと思う。いわゆるトランプ相場で買われたのは、金融株やエネルギー株だった。一方、トランプ大統領が打ち出した入国制限は、インド人等の外国人を貴重な労働資源とするシリコンバレーにとって逆風だった。パリ協定離脱など環境への配慮がない点も特に新興企業の経営者から批判の対象となっている。ざっくり分ければ、金融・エネルギー=プロ(親)トランプ銘柄、ハイテク=アンチ(否)トランプ銘柄という構図が成り立つ。

トランプ相場の勢いは、昨年の大統領選からせいぜい1カ月。年初からはトランプ政権のマイナス面ばかりが目立つと同時に株式市場でも金融株やエネルギー株は冴えない動きが続いてきた。その反対にハイテク株は群を抜くパフォーマンスを演じていたのである。

ロシアゲート疑惑で窮地に立たされていたトランプ大統領が(一時的にせよ)息を吹き返したのが先週金曜日であった。前日におこなわれた前FBI長官コミー氏の議会証言は、トランプ氏にとって致命傷となるような発言は出なかった。トランプ氏も安堵しただろうが、どういうわけか、プロ(親)トランプ銘柄も息を吹き返すことになったのである。

与党共和党が提出したドッド・フランク法(金融規制改革法)の見直しを含む金融規制の刷新法案は、まさにコミー氏の議会証言と同じ8日に米下院を通過した。上院通過のメドはたっていないものの、米議会が金融規制の緩和に動き出したのを好感し、9日の米国株市場では金融株が軒並み高となった。その金融株を上回る上昇となったのがエネルギー株だ。ニューヨーク原油先物相場が1バレル45ドル台で下げ止まったのを受けてシェブロンなどが買い戻された。エネルギー株の上昇率は2.5%でS&P500業種別株価指数のうちでトップだった。

これがハイテク株急落の裏で起きたことである。コミー氏の議会証言を乗り切ってトランプ氏が息を吹き返したこと - それがアンチ・トランプ銘柄であるハイテク株の利益確定売りを誘発した - あまりに荒唐無稽な説だが、タイミングが絶妙なだけに一理あると思いたくもなる。

今週は日米の金融政策会合が市場の注目点であるが、それよりハイテク株が先週末の急落から切り返すことができるかのほうが市場の関心を集めそうである。僕が注目したいのはアップルでもアマゾンでもなくエヌビディアの値動きである。金曜日の終値は6%安で引けたが、前日は7%超の急騰で大幅陽線。それをそっくりと包み込むように、金曜日は最高値から最安値まで15%の大幅安となった。前日の大幅高を全否定する陰線包み足。俗に「最後の抱き線」とも言われる売りシグナルである。

出来高も異常に膨らんだ。売る人は相当売っただろう。逆にこのあとは値動きが軽くなって早期にまた高値を追うかもしれない。いずれにせよ、ハイテク株は高値波乱商状となってきた。まだVIX指数は低位安定しているが、このハイテク株の波乱が米国株市場全体に波及するかが焦点だ。乱気流に突っ込む可能性もある。シートベルトの点検をお忘れなく。


広木 隆
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