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政局

by 広木 隆

せい‐きょく【政局】

1 ある時点における政治の動向。政界の情勢。「政局が行き詰まる」
2 首相の進退、衆議院の解散など、重大局面につながる政権闘争。また、安定政権の元では、与党内での主導権争い。多く、国会などでの論戦によらず、派閥や人脈を通じた多数派工作として行われる。「政局になる」「政局にする」
デジタル大辞泉

今は、完全に2である。政局になっている。批判を恐れずに言えば、僕は森友問題がなぜこれほど大騒ぎになるのか、さっぱりわからない。絡んだカネの額、首相の違法行為の可能性(賄賂などありえない)、(仮に首相が関与したとしても)その事の重大さ、社会に与えた損害等に鑑みれば、公文書改ざんという財務省の罪は別として、内閣の責任が問われるほどのことなのかという気がする。

「悪いこと」をどっちがより悪いか、と比べるのもバカらしいけれど、例えば、トランプ大統領のロシアゲート疑惑と比べてみたらどうだろう。米国の大統領という地位の威信にかかわる問題だ。安全保障の観点からも、国家機密の観点からも、もちろん選挙の公正さという民主主義の根幹にかかわる大事件であり、ウォーターゲート事件に匹敵するからこそ命名された疑惑だ。それに比べて「森友」「籠池」…比べるのもバカらしい。

やはり財務省という「役所のなかの役所」が起こした不祥事であること、自殺者まで出したこと、そのトップが麻生氏という安倍政権の要の人物であること – よって政局にしやすいこと、それが理由なのだろう。

「森友」のような、ちんけな事件が、なぜこれほどの問題に発展するかと言えば、これほどの問題に発展させたい輩が大勢いて、それゆえ「政局にされているから」というのが答えだと思う。これも「安倍一強」「官邸主導」の反動と言えばそれまでか。決して、よいこととは思わない反面、政敵を力づくで葬り去る中国やロシア(あるいは他の国の例を挙げればきりがない)を引き合いに出せば、まだ民主的だと思うべきか。

本当の意味で民主的かどうかは、さておくとして、内閣支持率といった世論調査に反応する株式市場は「民主的」と言えるのかもしれない。「みんなの意見」に基づいて決めるという意味では。兎に角、こうなった以上、我が国の株式市場にとっても重大な局面になってきた。

安倍政権が倒れたら

これだけは、はっきり言える。安倍政権が終われば、相場は終わりである。株価が上がらないというわけではない。現在の株価は底値に近いので、安倍首相退陣で売られても値幅も日柄もたかが知れている(それでもその場合は日経平均2万円割れまで見ておいたほうがいい)。下値を探ったあとは、またふらふらと上がっていくだろう。しかし、いちばん大事な「相場の芯」が欠けてしまったら、ただでさえ脆弱な日本株相場は一層、不安定になるだろう。

僕は従前から、過去5年に及ぶこのアベノミクス相場の本質は、「偉大なる官製相場」だと述べてきた。日銀やGPIFが株を買い上げるから、という些末な話ではない。日本企業の資本効率を欧米並みにする、稼ぐ力を取り戻す、そのための枠組みとしてコーポレートガバナンス、スチュワードシップコードを強化する、そうした日本企業の企業価値を改善させる道筋を政治主導で整備したのが安倍政権である。株主価値向上に意識が希薄だった日本企業とその経営者のマインドが今度こそ変わると海外投資家は期待して日本株を買った。

アベノミクスがスタートした実質1年目の2013年9月、安倍首相はニューヨーク証券取引所でスピーチし、「バイ・マイ・アベノミクス」とアピールした。日本株のトップ・セールスマンを演じたのだ。こんな首相は後にも先にも安倍さんだけだろう。同じ時期、僕もニューヨークにいた。行く先々のヘッジファンドで、「日本の財務官僚がアベノミクスを説明しにきたよ、こんな分厚いファイルを抱えてね」と聞かされた。そういう財務官僚も大勢いたのだ。政治家も官僚も一丸となってアベノミクスを外国人投資家に売り込んだ。政治の力で日本株を外国人に買ってもらえるようにした - それこそが「官製相場」であると僕が言う理由だ。

安倍さんが退陣したら、こういうことはもう期待できないだろう。なによりガバナンス改革も道半ばで骨抜きになる懸念がある。日本企業の変革に期待した海外の長期投資家からも失望売りが出るだろう。

森友問題の幕引き

27日に佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問を開くことが決まった。しかし、それで真相が明らかになると考える向きはまずいないだろう。どういう落としどころになるかわからないが、麻生大臣の引責辞任という格好で幕引きするしかないような情勢である。それでこの急場はしのげたとしても、ここで麻生さんに泣いてもらうと秋の自民党総裁選での安倍首相の3選は相当難しくなる。そうなったからと言って「アベノミクス」の終わりではないのだが、その話はまた事態が進展してからにしよう。

ともかく、麻生大臣辞任となれば、明示的には「アベノミクスの終焉」という連想が働き、一旦は大きく売られることになるだろう。その後、アク抜け感から底を打ち、4月からの需給改善もあって戻りを辿るとみる。しかし、前述の通り、相場は安定しない。再び秋に2番底という蓋然性が強まるだろう。なによりも、消費増税も含めてシナリオをすべて練り直しである。これは相当、相場の不透明感=リスクを高める要因となる。だから、麻生大臣辞任のストーリーはなんとか回避し、佐川氏の喚問だけで幕引きとなるのが相場にとっては(悪いながらも)ベストシナリオである。

不幸中の幸い

相場にとっての不幸中の幸いは、ここまで述べてきたようなワースト・シナリオをまだ織り込んでいないということだ。マスコミが騒ぐほど、相場は森友問題をシリアスにとらえていない。その理由は、冒頭で述べた通り、こんなくだらない問題が安倍政権を終わらせることになるとは外国人投資家には理解できないからだろう(僕自身、理解できない)。

相場がシリアスになっていない証拠その1:日経平均は200日移動平均が下支えになっている

本当に投げ売りが加速するような局面ではテクニカルなんか効かない。チャート上のサポートラインなんて簡単に破られる。逆に、移動平均なんかが意識されているうちは、まだ相場が真剣に悪材料視していない証拠である。

相場がシリアスになっていない証拠その2:円高が進んでいない

本当に安倍政権が危ないと市場が意識すればもっと円高になる。ところが国内のメディアで森友問題の報道が過熱するのに逆行する格好でじりじりと円安が進行。昨日のニューヨーク外国為替市場で円相場は続落し前日比45銭円安・ドル高の1ドル=106円50~60銭で取引を終えた。利上げが確実視されるFOMCの前だ。今後の利上げペースも気になる。「森友」なんかよりも「FOMC」、グローバル投資家の常識であろう。


広木 隆
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